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上司の命令に従っただけなら何をしても良いのか?書評:アイヒマンと日本人

はじめに

第二次世界大戦中にナチス・ドイツが行ったホロコーストは、人類史上最も悲惨な事件の一つです。

600万人以上のユダヤ人が組織的に殺害されたこの事実は、私たちに深い問いを投げかけます。

なぜこのような恐ろしいことが起こってしまったのか?そして、私たちはこれから何を学ぶべきなのか?

山崎雅弘著『アイヒマンと日本人』は、ホロコーストを主導したアドルフ・アイヒマンの生涯と、彼の行動原理が理解できてしまうであろう日本社会に対する論考です。

アイヒマンの人物像

アイヒマンは、オーストリアのリンツ生まれの平凡な男でした。

彼は特に優れた才能や能力を持っていたわけではありませんでしたが、勤勉で几帳面な性格であり、上司の指示には絶対服従を誓っていました。

1933年にナチ党に入党し、親衛隊(SS)に志願します。SSの中でアイヒマンは、ユダヤ人問題を担当する部署に配属されます。

アイヒマンは、ホロコーストの計画と実行において重要な役割を果たしました。

彼は、ユダヤ人の強制移住や絶滅収容所の建設を指揮し、ガス室や火葬場の設計にも携わりました。

1つの民族を絶滅させようというおそろしい計画にもかかわらず、アイヒマンは、自分の仕事を単なる事務作業と捉え、ただただ上司の思いを完璧に実現しようと奔走しつづけただけだったのです。

 

アイヒマンの考え方

山崎氏は、アイヒマンの思想や行動を、日本人が理解できてしまうであろうことを問題提起しています。

例えば、上司に言われたことは絶対である。上司の考えを忖度して、それ以上の成果を出そうと努力する。たとえどんな非道な行為であっても、上位者の命令に従っただけだから自分に責任はない。

こんな役人根性とも呼ばれる思想や考え方を持つ人材が評価されること、それは短期的には会社や国に利益をもたらすかもしれないが、長期的に間違った方向に進むことを止められないのではないか。

今の日本社会では、上位者の決定にはどんな命令であっても従わないといけないという、「小アイヒマン」とでもいうべき存在を生み出し続けているのではないか。

そのことに関する危機感を、山崎氏は述べています。

『アイヒマンと日本人』の感想

『アイヒマンと日本人』は、ホロコーストという重いテーマを扱いながらも、非常に読みやすい作品です。

山崎氏は、アイヒマンという人物像を客観的に描き出し、ホロコーストがなぜ起こってしまったのか、その背後にある要因を丁寧に分析しています。

また本書は、ホロコーストについて考えるきっかけを与えてくれるだけでなく、現代の日本社会における人間の倫理や責任についても考えさせてくれます。

私たち日本人は、アイヒマンのような考え方と行動をしていないか。

この投げかけられた問いに対して、私は目を背けてはいけないと感じます。