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あなたは、なぜ理不尽を受け入れてしまうのか?書評:「日本宗教のクセ」

2023年8月に発売された内田樹氏と釈徹宗氏による対談本「日本宗教のクセ」は、私たち日本人の独特な考え方や行動を宗教という視点から捉え、その本質に迫る意欲的な作品です。

本書では、内田氏の軽妙な語り口と釈氏の深い仏教知識が織り成す対話を通して、日本における宗教の多様性と複雑性、そして現代社会における宗教の役割などが明らかになっていきます。

この記事では、内田樹氏と釈徹宗氏の対話から浮かび上がる日本宗教の「クセ」について紹介します。

日本人の宗教観の多様性と複雑性

本書では、アニミズム、仏教、神道など様々な要素が混淆していることこそが、日本人の宗教観であると指摘されています。

これは、日本古来の信仰と大陸から伝来した仏教が融合し、さらにキリスト教、そして江戸時代以降に儒教の影響を受けた結果です。

内田氏は、このような多様性と複雑性を生み出し、受け入れることができるのは日本人の特質であり、同時に混乱を生み出す原因にもなっていると指摘しています。

例えば、神道と仏教は異なる起源を持つ宗教ですが、日本では神社と寺院が混在しており、多くの人が区別せずに信仰しています。

しかし、なぜ一緒になっているのか、明確な根拠や理論は存在しません。

現代社会における宗教の役割

現代社会では、科学技術の発展や社会の合理化によって、宗教の影響力は低下していると言われています。

しかし、本書では、宗教は依然として人々の精神的な支えとして重要な役割を果たしていることが示されています。

釈氏は、現代社会における宗教の役割として、死や苦しみといった人生の難問に答えること、人々に生きる意味を与えること、そして共同体の絆を形成することを挙げています。

一方で、カルトや新宗教の台頭により、本当の古来の知恵である宗教が切り売りされ、その本質も見誤られているとも指摘しています。

日本宗教の「クセ」

本書では、日本宗教の「クセ」として以下の点が挙げられています。

  • 地に足をつける:死後の世界よりも現世できちんと生活できることが偉い
  • 習合:異なる宗教や信仰を受け入れ、妥協し、混ぜ合わせても違和感を感じない

この「クセ」は、日本における宗教の立ち位置を独特なものにしていますが、同時に外部からも自分たち自身ですらも、理解を難しくする要因にもなっています。

内田樹氏と釈徹宗氏の対話

本書は、内田氏と釈氏のトークイベントを書き起こしたものであり、読みやすい口語の対話形式で書かれています。

二人の専門分野は異なりますが、互いの意見を尊重しながら議論を深めていく姿は、読者に深い洞察を与えてくれます。

特に印象的なのは、内田氏が日本人を「なんでも受け入れてしまうため、外部から攻められると限界まで引き下がる」と表現している点です。

これは、日本人が異質なものとでも融和しようとする傾向を指しており、それが日本の文化の発展に寄与してきた一方で、現代社会における我々の行動方針を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

まとめ

「日本宗教のクセ」は、日本人の性質を宗教という視点から捉え、その本質を理解しようと試みた本です。

日本宗教は、今後も様々な変化を遂げていくでしょう。

しかし、日本人の精神的な支えとして、重要な役割を果たし続けることは間違いありません。

本書を読み、日本人の宗教観について新たな視点を得ることは、日本人とは何かを理解するうえで有用だと感じました。