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ベンチャーキャピタルとアメリカン・ドリームから読み解く起業家精神の系譜

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はじめに

ベンチャーキャピタル、それは単なる投資手法を超え、アメリカという国そのものの精神性を象徴する概念なのかもしれません。

ハーバード・ビジネス・スクール教授であるトム・ニコラス氏の著書『ベンチャーキャピタル全史』は、その歴史を紐解こうとした意欲作です。

本書はベンチャーキャピタル(以下、VC)の革新的な力がアメリカ社会にどのように根付き、イノベーションを支えてきたのか、その歴史的変遷を丁寧に説明しています。

リスクを恐れず、大きな飛躍を夢見る開拓者精神。そこから生まれたイノベーションが、今日のアメリカ経済の強靭さを支えていると言っても過言ではないでしょう。

本書を読むことで、VCの歴史的な経緯を知りながら、アメリカの経済史そのものを理解することができます。

VCの歴史:捕鯨産業からシリコンバレーまで

アメリカにおけるVCの原点は、意外にも19世紀まで遡ることができます。

当時の捕鯨産業は、クジラという大型船と同じ大きさの生物を人間が狩猟するという、リスクの大きい危険を伴う長期航海への出資を必要としました。

投資家は巨額のリターンを期待する一方、失敗する可能性も非常に高く、出港した100隻の1隻が残り99隻分の利益を稼ぎ出すというビジネスモデルでした。

まさにハイリスク・ハイリターンの原型と言えるでしょう

20世紀に入ると、VCはさらに飛躍的な進化を遂げます。

フェアチャイルドセミコンダクターをはじめとする半導体産業の勃興に端を発し、シリコンバレーがイノベーションの震源地として台頭。

VCは潤沢な資金を革新的なテクノロジー企業に注ぎ込み、アップルやグーグルといった巨大企業の誕生を実現させたのです。

 

VCを支えるアメリカ社会の特性

ニコラス教授は、VCがアメリカにおいて開花した理由としていくつかの社会的な要素を指摘します。

リスクテイクへの寛容さ

失敗を恐れず、新たな挑戦への糧と捉えるマインドセット。

アメリカでは失敗は成功の基であり、成功するまで続ける粘り強さがあります。

フロンティアスピリット

未知な領域への進出を恐れず、未開拓分野へ突き進むチャレンジャー気質にあふれています。

新しいことをするのを馬鹿にしたり、邪魔したりする人間は誰一人として存在しません。

起業家への賞賛

ビジネスで成功した社長をアイドルやスターとして称える文化があります。

成功者は妬まれることなく、彼や彼女たちを目指して、新しい起業家が次々と誕生します。

流動的な資本市場

アメリカでは投資資金を集めやすく、イグジット(投資回収)手段が確立されている環境があります。

シリコンバレーでは歴史的にベンチャーを成功させる方法が蓄積されていて、起業家を支える仕組みになっています。

VCの功罪

VCがテクノロジーの進歩や経済成長に果たした役割は計り知れません。

VCは単に投資を行うだけでなく、その豊富な経験や人脈を活かして、スタートアップ企業の成長も積極的に支援します。

しかし、同時にこの業界は課題とも無縁ではありません。

成功確率の低さ、一部への富の集中などは、VCを取り巻く論点としてしばしば挙げられます。

またトップ5のビジネススクール出身の白人男性に過剰な富が集まってしまうことも、アメリカVC業界の闇として知られています。

日本の起業環境とVC

日本では近年、ベンチャー企業への投資に注目が集まっています。

政府による新規事業家への支援策も拡充されつつあるものの、アメリカと比較すれば資金規模やリスク許容度の面で多くの課題が残されています。

本書からは、国内の起業家や投資家にとっては、アメリカにおけるVCの歴史から多くの学びを得ることができるはずです。

まとめ

本書が教えてくれるのは、ベンチャーキャピタルはアメリカン・ドリームを体現するような存在であるということです。

イノベーションの波を後押しし、新産業の創造を促してきたVCの歩みを振り返ることで、その役割の大きさを再認識すると共に、日本の起業環境を考える上でも示唆に富む一冊と言えます。 

本書を読むことで、VCの世界、そして起業することの意義について考えるきっかけを与えられることでしょう。